投稿日:2016-12-24 Sat
「へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と『宅老所よりあい』の人々」 鹿子 裕文 著
おしっこまみれ、ごみまみれのお年寄りのための居場所を作ろうと奮起した女性と、
その企みに巻き込まれた人々の勇気の出るノンフィクション。
宅老所 よりあい」は福岡にある老人介護施設。
当初はデイサービスとしてスタートするがやがて、
本格的な介護施設へ変わって行く。
本当の介護ができる施設、
老人たちが気兼ねなくすごせる場所をつくろうと奮闘した人たちの物語がこの本だ。
著者は、フリーの編集者で「よりあい」の代表の一人、村瀬孝生さんの本の出版のため、
出版社から依頼を受け、「よりあい」に足しげく通うようになる。
そして、それがきっかけでもう一人の代表である下村恵美子さんと親しくなり、
「よりあい」の世話人のひとりとして様々な活動の手伝うことになる。
「よりあい」の発端は下村さんが大場ノブヲさんという
明治生まれの老婦人の話を聞いたことからだった。
大場さんは夫をなくしてから一人暮らしで、
何から何まで自分でやって来たのだが、ぼけてからは、
風呂に入らなくなり、下は垂れ流し状態で、体は異臭を放つようになっていた。
下村さんがその部屋を訪ねるとおしっこまみれ、ごみまみれ。
本人は「誰だ! 何しに来た!」と威勢はいいのだが、
部屋中ものすごいにおいで、どこか施設に入れてもらえないかと
知り合いの介護関係者に連絡するも、
そんな老婆を預かると他の利用者に迷惑だと言われ、
簡単に断られてしまう。
「けっ! ばあさま一人の面倒もみきらんで、なんが福祉か!
がんが介護か! なんが専門職か! 馬鹿にしくさって!」
怒った下村さんは、それならば、自分たちで大場さんの居場所を作ろう
とデイサービスを始める。
義憤にかられた下村さんの姿に感動せずにはいられなかった。
ところどころに挿入される下村さんのエピソードがホッとさせるし、
面白かった。
谷川俊太郎さんとのイベントでのやりとりとか最高。
下村さんの強烈なキャラクターが親しみやすくて、
過酷な介護の話でも軽く読める。
当初は借家や間借りで運営していたが、
様々な事情で自前の建物が必要と考え、
方々にあたり、頭をさげ、協力をお願いして資金を調達する。
土地を購入し、補助金を申請し、
建築にようやくこぎつけることができる。
困難の末、2015年4月、自分たちの居場所である建物が完成し、
開所することとなる。
常に赤字続きの「よりあい」は資金調達のため介護以外の活動も多い。
ジャムを手作りして売っていたり、Tシャツ、トートバッグも売っている。
近くでイベントがあれば焼きそばの屋台を出したり、
募金箱を商店街や公民館なんかに置かせてもらったり。
そして著者が責任者を務める雑誌「ヨレヨレ」も資金調達の一環でスタートする。
(介護現場の現実を伝える「ヨレヨレ」は好評だそうだ)
キレイごとではすまない介護の現場と日常を描いているが、
著者の語りが軽いので楽しく読んだ。
それでも、介護の過酷な労働環境で人手不足が解消されない状況はひしひしと伝わってくる。
人間を相手にしているのだから、
数字や効率を優先しているように感じる今の介護の状況も伝わってくる。
現実として「よりあい」から離れて行く人たちのところも興味深い。
「よりあい」に共感し、世話人になって熱く介護を語っていた人が、
資金調達の地道な活動に参加せず、やがて来なくなる人たち。
登場人物がどの人もゆるい感じで魅力的だった。
著者の描き方もいいのだろうが。
この本全体を包んでいる何とも言えないやさしさ。
過酷な介護現場を笑い飛ばして、
毎日生きていこうとする下村さんの姿に、
少なからず勇気をもらった。
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投稿日:2016-12-17 Sat
「満潮」
シッラ&ロルフ・ボリリンド 著
久山葉子 訳
スウェーデンが舞台のミステリー。
海岸で生き埋めのまま満ち潮で溺れ死んだ女の事件が、
発展した企業の闇を暴き出して、意外な真相が明らかとなる。
スウェーデン、ストックホルム。
警察大学に通うオリヴィア。
夏休みの課題で、死んだ父がかつて捜査を担当した未解決事件を調べ始める。
その事件とは、砂浜で生き埋めにされて、満ち潮で溺れ死んだ外国人の女性の事件。
当時父とともに事件を捜査していた元刑事・スティルトンの行方を捜すと、
ホームレスとなっていた・・・。
物語は、オリヴィアの事件を調べる様子と、
スティルトンのホームレスの生活が中心に描かれる。
そのほか、強引なやり口が批判されている大企業の社長のマグヌソンや
ホームレスを襲撃して、その映像をネットにアップするグループ、
スティルトンの元の同僚の警察の人間の様子も描かれる。
多視点で描かれるので事件を中心に現在と過去を幅広く描いている
のかもしれないが、
ちょっと物語が散漫になってしまっているように感じた。
若くて怖いもの知らずのオリヴィアが、
当時だれも解明できなかった事件の真相に突き当たる・・・・
という展開を期待していたが、
思ったほどオリヴィアは活躍しない。
殺人現場となった島まで行って調査するも、
それ以降は突っ込んで調べる様子は感じられなかった。
夏休みの課題で調べ始めるというのも、
捜査の動機としてはちょっと弱いと、途中で感じしまった。
なぜ彼女が・・・という疑問はラストのサプライズで明かされるのだが、
すべてがそのために仕組まれているので、
物語がちょっと強引な感じもした。
(島でヴェントと会う場面とか唐突に感じた)
ホームレスまで落ちぶれた元警官のスティルトンの描き方も、
中途半端に感じた。
落ちぶれた様をもっと強調してもよかったし、
なぜ刑事をやめることになったかもメンタル的なダメージがあったと書かれているが、
はっきりとはわからず釈然としなかった。
(その辺は次作以降で明かされるのか)
好感をもったのは、スティルトンの元の同僚の警視、メッテ。
肝っ玉母さん的な雰囲気が伝わって、
悲惨な事件の物語の中でちょっとほっとする。
事件の真相がほぼ語られたあとにサプライズが待ち受けているが、
さすがに出来すぎに感じてしまった。
訳者あとがきによると、
オリヴィアとスティルトンの物語はシリーズ化され、
4作目まで発売されているそうだ。
そう聞くと、この後、どう物語が展開されていくのか、
楽しみになってしまう。
個性的な登場人物が、どんな風に活躍するのか。
不満は残るが、
物語の始まりに立ち会えたのはすごくよかった。
少し大きい文字
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