投稿日:2016-06-11 Sat
「この手紙、どどけ!」
西谷 格 著
日本統治時代の台湾。
台湾のこどもたちに勉強を教える日本人教師。
戦後、日本人は台湾を引き上げ、
その後に蒋介石とその軍隊がやってきて統治を始める。
時を経て、教え子たちの今が気になった元教師の106歳の女性が、
台湾に宛てて手紙を書く。
しかし、今の住所とは違っていて、
手紙は宛先不明で郵便局で保管されることになる。
普通ならここで終わってしまうところだが、
ここからが奇跡が起こる。
日本からの手紙が気になった郵便局員たちが、
手紙の受取人を配達先で聞き込みして調べ、
家族のもとに届ける。
それから、元教師と教え子たちの時をこえた文通が始まる。
この出来事は、台湾のメディアでとりあげられ、
日本でも一部の新聞でとりあげられたそうだ。
著者は、手紙を教え子の家族のもとへ届けた郵便局員をたずね、
元教え子たちをたずねている。
日本からきたのだから何か大事な手紙なのだろう・・・と、
宛先不明の教え子の住所を調べあげ、
届けた郵便局員たちに感動してしまう。
その心意気に。
そして、数人の教え子の話を聞き、
当時の台湾の様子、学校での生活の様子などが語られる。
日本語の教育をうけていた80歳前後の教え子たちは、
今も流暢な日本語を話し、綺麗な日本語の文字を書いている。
ところどころに、教え子たちの直筆の手紙の画像が載っていて、
それを見ているとなぜか涙がとまらなかった。
日本統治時代の日本人たちはおおむね公平で、まじめで、
規律正しかったと多くの教え子が話す。
楽しかった思い出、厳しく指導された思い出。
話すようすが見えてくるような感じで、
当時の学校様子や雰囲気を想像してしまう。
それぞれの教え子たちの戦後の人生を回想しているのも興味深い。
戦後やってきた国民党軍の傍若無人ぶりに、
日本統治時代を恋しくなる人がほとんどだったそうだ。
貧しかった台湾が、発展していく姿が、
そのまま教え子たちの人生に重なっていく。
事業を起こしたり、仕事についたり、
数々の苦労を重ねながら年を重ねる姿にも感動してしまう。
戦後の台湾では、反日教育がおこなわれ、
日本統治時代に対して否定的な人も多いという。
直接、日本統治を経験した人達が感謝し、
そうでない人が否定するというのも印象に残る。
国民党軍があまりにひどかったので、
日本統治時代がよく見えたというだけかもしれないが。
先生と教え子の交流が深く感動するのはなぜなのか。
それは真心と真心のによるものだからではないか。
70年たっても教え子の健康をこころから心配する女性の姿、
70年前のことをいまでも感謝する80歳の教え子たち。
時がたってもまったくかわらない絆に、
心から感動してしまった。
今の日本からみてなんとうらやましい時代だったのか。
戦前が悪で、戦後が善というありふれた価値観が
いかに陳腐で間違っているかと思い知らされる。
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