投稿日:2006-11-18 Sat
黒澤明。言わずと知れた日本を代表する映画監督。
特に外国の映画関係者の中にこの監督のファンが多く、その事実が、日本人にこの監督に注目させる理由にもなっている。
作品に対して妥協しないその姿勢は、いまや伝説となっている。
しかし、黒澤監督が思うように映画を製作できなくなっていた時期があった。
今日、紹介する本は、監督としてのキャリアが円熟期を迎えた黒澤が初めて手がけるハリウッド作品(実際には中止となった「暴走機関車」がある)として注目された映画「トラ・トラ・トラ」の監督解任の真相に迫った、力作ノンフィクションです。
田草川弘著
「黒澤明 vs ハリウッド
『トラ・トラ・トラ』その謎のすべて」
の感想です。
黒澤明vs.ハリウッド―『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて 田草川 弘 (2006/04) 文藝春秋 この商品の詳細を見る |
真珠湾攻撃にいたるまでの日米両方のドラマを描く映画。
あとがきでも触れているように、著者はこの映画の製作過程に直接関わり、監督に直に会っている。
それだけに、突然の解任劇を目の当たりにしたときは衝撃的だったらしい。
日本映画史に残る、事件の真相を知りたいという欲求だけでなく、個人的なその理由からも、この本を執筆しようとした情熱がわかる。
だから、内容ギッシリ。すごいよ~。
読み応えずっしり。
タイトルが目を引くけど、監督とハリウッドの製作陣は最初から、険悪なムードで喧嘩腰で対決していたわけでない。当然ですが・・・。
創作に関わればそりゃ、何かしらでぶつかるのが当たり前だから・・。
だけども、結局「トラ・トラ・トラ」の製作の20世紀フォックスは黒澤明を監督から解任する。
一体、なぜ黒澤は解任されなければいけなかったのか。
両者はどう対立したのか。
著者は、アメリカでの取材で見つけた新たな資料をもとに、その理由に迫っています。
なぜ、解任されたのか・・・・。
それはこれだと一つの理由をあげられるほど単純ではない。
様々な条件と環境が、監督解任へとつながっていく。
フォックスと黒澤プロのこの作品に対する考えがはじめから大きく違っていることがそもそもの原因に思われる。
フォックスは、大ヒットした「史上最大の作戦」をモデルとして大スペクタクルな戦闘シーンがてんこ盛りの映画を想定し、クロサワはあくまで、真珠湾攻撃の日本パートの監督という位置づけでしかなかった。
しかし、黒澤プロでは、黒澤監督が作品全体に責任を持つ総監督だというふうに考えており、また、黒澤監督は、日米の大きな誤解から生まれた途轍もない悲劇という風にこの映画を考えて、脚本や演出を準備していた。
何よりもこのことが一番大きいと思った。
日本とアメリカ。
言葉の違い。映画製作の違い。商慣習や契約、法律の違い。
細かい部分を著者は綿密に調べて、そのずれを指摘している。
大きなズレをはらみながら、製作は京都の撮影所でクランクインするのだが、その撮影が思うように進まない。
監督が、選んだ素人の俳優の演技が気に入らなかったり、セットを急に変更したり、助監督を激しく罵倒したり・・・。
さらには、やくざ映画の出演者たちが闊歩する姿を見て、恐怖を感じたのか、フォックス側に常時ガードマンに警護させることを要求。
また、軍人役の俳優がスタジオに入るときは、ファンファーレを鳴らし、スタッフ全員が敬礼で迎えるように命令する。
この黒澤の奇行にスタッフは困惑する。
そして、とうとう現場スタッフは、このままでは撮影できないとして作業を中断し、監督ならびにプロデューサーに申し入れ書を提出して、これまでの監督の振る舞いの謝罪を要求する。
しかし、プライドの高い黒澤はそれを断固として拒否する。
また、長年、東宝で撮影してきた黒澤にとって、京都の東映での仕事は何かとストレスを抱え込んでいたようで、毎晩夜遅くまで酒を飲み、翌朝は、すべての準備が整っているにも関わらず、姿を現さなかったりしている。
クランクインから黒澤解任までの、フォックス側の製作日誌は緊迫感があって、もう読んでてすごく興奮した。
現場の混乱ぶりとスタッフ達の苦悩がひしひしと伝わってくる。
フォックス側はこの混乱ですぐに監督を解任しているわけではなく、なんとか撮影を続行させるように努力する。
仲裁案や妥協案をだし、黒澤監督が仕事しやすいように調整し努力している。
いかにもアメリカの合理主義で、ダメならすぐクビだと言っていたのかと思っていたので、ちょっとビックリ・・。
黒澤監督は、当時自ら会社を作り、そこで映画製作を請け負うという状況にあった。しかし、会社は東宝からの資本がはいり、自由に作品をつくれるような状態ではなかった。
そんな時に、この「トラ・トラ・トラ」(約一年前に「暴走機関車」のハリウッドでの映画化のオファーもあったがやはり、中止となっている)の話が舞い込んでくる。
黒澤プロの発展には願ってもないハリウッドからのオファー。
黒澤監督の側近は熱烈に監督にこの依頼を受けるように進言する。
まぁ、誰でもそうすると思うが・・・。
しかし、黒澤監督は会社の社長や経営者というより、表現者だったんだな。予算や製作期間よりも作品に対するこだわりを優先する。
実務的なことを黒澤監督はすべてこの側近に一任していた。
監督解任後、この側近と監督はその責任をめぐって記者会見で非難し合い、決別する結果となる。
フォックス側は、クロサワは極度の緊張状態にあり、撮影を続行する状態にはない、と精神的な病気を理由に黒澤監督を解任する。
しかし、監督は記者会見で、この病気説を一蹴している。
(監督自身が尊敬していた、ドストエフスキーやゴッホと同じように、黒澤監督が癲癇の持病を持っていたこともこの本は解き明かしている)
「トラ・トラ・トラ」は日本側の監督して舛田利雄と深作欣二を立てて作品を完成させる。
日本や欧州では成功するが、アメリカでは期待ほどの収益は上げられなかったそうだ。
失意の黒澤はその後、自殺未遂を起こす・・・。
黒澤監督は、この後、「デルス・ウザーラ」を完成させるが、興行的には惨敗する。
日米のズレが生んだ大悲劇を演出しようとしていた黒澤監督自身が、日米の大きな溝を超えられないというなんとも皮肉な結末。
天才であるがうえの苦悩。奇行。
常人には理解できないことも多い。
しかしながら、この本を読むと黒澤監督の類稀な才能をも目の当たりにする。やっぱ、すごいと思わされる。
いやー、読み終わってほんとため息が出た。
思惑と情熱と魂のぶつかり合い。
どっと疲れが出たけど、何とも言えない充実感にも包まれた。
一つのことを成し遂げようとするときの苦労を心底理解できる一冊です。
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