投稿日:2006-10-18 Wed
事件のノンフィクションって読んだことあります?ないですか。
ちょっと不謹慎かも知れないけど、俺はもう大好物なんです。
新聞やテレビでは分からなかった情報があったり、間違って伝わっていたりすることが分かるし・・・。
事件を通して、その被害者や加害者の人生や生い立ちを知ることができるのは、もう合法的なのぞきって言ってもいいくらい。
(厳密には、書き手の目を通した事件や犯人の姿なんだけど・・・)
ということで今回取り上げる本は、これです。
窪田順生著
「14階段
検証 新潟少女9年2ヶ月監禁事件」
![]() | 14階段ー検証新潟少女9年2ヶ月監禁事件ー 窪田 順生 (2006/04/01) 小学館 この商品の詳細を見る |
合法的なのぞきってちょっと過激だけど、野次馬的な下世話ば魂胆だけじゃなくて事件や犯罪がなぜおきたのか、犯人や加害者の家庭や環境を知る事は、同じ時代に生きている自らの地域や社会の問題を考えることにつながっていると思う。
それが、もっといい社会につながるんだと思う。
本としてのノンフィクションの魅力は、その野次馬的な下心もあるけど、それだけじゃなく、そこに人生が描かれているということ。
これは、フィクションにも通じていて、いかに人の愚かさや素晴らしさや滑稽さをあざやかに切り取るかというところ。
そう考えると、ノンフィクションがフィクション以上に人生を表現することもあると思う。
この本の著者は、元フライデーの事件記者。
記者当時にこの事件が発生し、自ら志願して新潟に乗り込み、取材する。
その後、フライデーからは離れるのだがどうしてもこの事件の犯人とその母のことが気になり、再び取材に訪れる。
この監禁事件。史上、稀にみる凶悪な事件として新聞やテレビでも大きく取り上げられたから、何となく覚えている人もいるでしょう。
詳しくはこちら
事件は、引きこもりの息子の暴力に耐えかねた母親の保健所への電話で公になる。
その息子、佐藤宣行は高校卒業後、三ヶ月で就職した会社をやめ事件発覚時の37歳までほとんど定職につかず、ずっと自宅の二階に引きこもっていた。生活は、保険の外交員をしていた母親の収入によって支えられていたが、異常なのはそれだけでなかった。
アイドル雑誌や趣味のものを母親に買いに行かせて、使い走りのようなことをさせて、買って来た雑誌が少しでも折れ曲がっているなど気に入らない事があると母親にすぐ手を上げ、いわば暴君のように振舞って母を支配していた。
母親の通報で駆けつけた保健所職員は、息子のいる二階に行き、暴れる息子に何とか鎮静剤を打ち、落ち着かせ病院に搬送する。
そして、ベッドの上で毛布にくるまれた塊を見つける。めくってみると中には、やせ細り、雪のように肌が白い十代後半と思われる少女が出てくる。
職員が、少女にどこの誰なのかを尋ねても要領を得ない。息子の母親に、少女のことを聞くが、母親も職員と同じように驚き、少女がいることはまったく知らなかったと職員に話した。
一つ屋根の下に暮らしていながらそんなことがあるのだろうか。
しかし、母親の話によると息子の言いつけでここ何年も二階には上がってなかったという。
二階の廊下には、ビニール袋に入れられた糞尿が所狭しと並べられていた。他の人間からすると異常なこの状態が何年も続いていたのだ。
この事件の異常さも話題になったが、警察の対応の怠慢さも世間の批判にさらされた。
保健所の職員がこの家に駆けつけた時点で警察に応援を要請するが、断られている。そして、身元不明の少女を発見して、もう一度警察に保健所の職員が通報するが、それでも新潟県警は動かなかった。
明らかに事件性があるのにも関わらず・・・。
再度の通報で事の重要さがわかった警察は、慌てて病院に駆けつけ、指紋を照合すると、少女が、9年前に失踪した小学生だと判明する。
数時間後に行われた記者会見で新潟県警は以下のように発表する。
「午後2時50分ごろ、柏崎市の病院で男性が暴れているとの通報があり、警察官が駆け付けたところ、一緒にいた女性が、三条市で行方不明になっていた少女であるとわかったため保護した」
しかし、事実はまったく違っていた。そして、病院や保健所をメディアが取材した結果、警察の嘘と職務怠慢が明らかとなる。
更に・・・、
この会見が行われているときに、県警のトップ、本部長が温泉宿で賭け麻雀に没頭していた事実が明らかになる。
記者会見は刑事部長に任せ、自分はもっと重要な用事があったために本部には戻らずに温泉宿に向かったのだ。
そこで、本部長は上司である関東管区警察局長の接待をしたいたのだ。
ちょうど新潟を訪れていた局長の要望で、夜は「雪の見える旅館で麻雀」と決まっていたのだ。
行方不明の少女が発見されたことなんかより、上司を接待して自分の出世のほうが大事であり、優先したのだ。
ほんとに開いた口が塞がらないね。
現場のほとんどのお巡りさんは真面目にやっていると思うけど、やっぱり長年続く組織は、腐敗するんだね。
加えて、少女の失踪事件の新潟県警の初動捜査の杜撰さも問題視された。
少女が失踪した当時、佐藤宣行は別の少女への猥褻事件で有罪となり、執行猶予の身だった。にも関わらず、容疑者リストに佐藤の名前は入っていなかった。
この手の犯罪は、累犯や再犯の可能性が高いことを考えれば県警の対応は批判されて当然だったといえる。
県警の対応のまずさがこの事件に間接的に関与しているといってもいいかも・・・。
もしかしたら、誘拐されてもすぐ発見できたかも知れないでしょ。
逮捕後の取調べ等によって、事件のあらましが明らかになるとともに、この犯人と母親の関係の異常さも注目されていく。
著者は、佐藤宣行に懲役14年の刑が確定した2003年、再び、新潟を訪れ、宣行の母にインタビューを申しいれる。
取材対象にかなり深く入り込んだ取材って、その人に情がうつってしまいそうで、あまりよくないんじゃないかなと思うが、著者は母と一緒にドライブに出かけたり、家に泊まったりする。
そして、親しくなった成果として見えなかったこの家族の形を解き明かして行く。
人間の人格はすべて親や家庭で決まるというと単純すぎるかも知れないが、この引きこもりの男が事件を起こすにいたったのは、やはり、父母の影響があったはずだ。
親子ほど歳が離れた父と母、友達の父親より明らかに歳をとって、おじいさんのような父、一緒に外で遊びたくても遊んでもらえない。
若い頃に、病気で何年も寝たきりとなり、息子の引きこもりと同じような過去を持つ母。
生活を変えるために、家族の薦めで決めた歳の離れた男との結婚。
一つ一つの事実を積み上げ、著者は、最後に自分なりの考えをまとめる。それは、特異な家庭環境が影響しているというものだが、納得できるものだ。
刑が確定して服役している佐藤。母は、面会に訪れるときに競馬雑誌を差し入れていることを著者は目撃する。
いつまでも子供に甘い母。刑務所のなかでも趣味の競馬に執着する息子。
刑期を終えて出所しても、どうやら心から反省していないこの男の再犯の可能性を、著者は心配して、この本を締めくくっている。
憎むべきは、もちろんこの凶悪犯罪を犯した犯人だ。
しかし、この犯罪にいたるまで何か、社会や地域や公機関がこの親子に注意なり警告なりをできなかったのか。考えてしまう。
犯罪の発生する原因を突き詰めていくと、社会の抱えている問題点ガ見えてくるように思う。
間違いなく、豊かになった現在の日本で犯罪は起こったのだから・・。
読み終えて、深いため息とやるせなさが残る一冊です。
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