投稿日:2018-06-02 Sat
「失われた手稿譜 (ヴィヴァルディをめぐる物語)」フェデリーコ・マリア・サルデッリ著
作曲家・ヴィヴァルディーの手書きの楽譜がたどった運命を描いた小説。
ユーモラスな描き方でとても読み易かった。
タイトル通り、ヴィヴァルディーの手稿譜がたどった運命を史実に基づいて描いた小説。
有名な作曲家というイメージしかなかったヴィヴァルディー。
実際はとても人間的だ、親しみのもてるダメな部分もたくさんあったとは驚き。
とはいいながら、ヴィヴァルディー本人は一切登場しない。
兄弟や債権者が登場し、間接的にヴィヴァルディーが描かれる。
宗教家でありながら、借金の取り立てに苦しんでいたというのは、
本当に驚き。
兄の手稿譜を何とか後世に残そうとする弟の奮闘ぶりがユーモラスに描かれていて、
そこから一気に惹きこまれる。
手稿譜がたどった運命を時代を行きつ、戻りつしながら描かれる。
あとがきによると、史実に基づいて描かれていて、
事件なんかはほとんど実際に起こったしている。
そう言われても、本当か?疑ってしまうような面白い事件も起きていて、
登場人物などとてもユーモラスに描かれていて、
とても読み易かった。
物語に進むにつれて、
手稿譜がばらばらにならないように祈りながら読んでいた。
現代に近い、1920年代、図書館の資料として手稿譜を保存しようと、
奔走した責任者が、時代の風潮で、功績をまったく評価されず、
解任されたというのは、心が痛む。
権力者の横暴や、教会が修復費用の工面に苦労する様子など、
さまざまな時代のイタリアの社会が描かれているのも面白かった。
投稿日:2018-01-29 Mon
鬼才SF作家の傑作短編集。どの作品も読後、余韻に浸りたくなるようなものばかりでした。
長編と違って短編は、あれやこれや長々と書けない(書かない)。
それだけに、物語をどう語るか。
語り手や登場人物の人生の一部をどう切り取るかが、
作家の腕の見せ所。
鬼才と呼ばれるだけあって、
その点、どの作品も一気に惹きこまれる。
冒頭の作品、「ごきげん目盛り」は、
AIやロボットがもうすぐ人間の能力を追い越すと言われ始めた今、
タイムリーさを感じながら読んだ。
アンドロイドの稼ぎを頼りに生きる男と罪を犯すアンドロイドの逃避行。
完璧なはずのアンドロイドの意外なもろさに背筋が凍るような怖さを感じた。
「昔を今になすよしもがな」
地球に最後に残され、偶然出会った男女のやり取りが描かれる。
一人での生活は自由気ままで、やりたいことをし放題だが、
誰かの手を借りたいこともある。
結構身近で、切実な問題があることを改めて実感。
出会って変化していく人間関係の微妙なバランスに、
ハラハラしてしまった。
「選り好みなし」
原爆後の世界で、なぜか人口が増加していることを、
統計データで発見した男。
真実を探ろうと調べると意外な事実がわかる。
日本人も登場して、とても印象的な作品。
昔はもっといい時代だった・・。
未来はもっと快適な世の中になっているはず・・・。
そんな妄想が空しくなってしまう。
人によって、琴線にふれる作品は違ってくると思う。
SFを読むといつも思うこと。
通常の読書ではなかなかない刺激を受けること。
今回もさまざまな角度からの刺激をうけることができた。
投稿日:2017-05-01 Mon
「煽動者」ジェフリー・ディーヴァー 著 池田真紀子 訳
キャサリン・ダンスシリーズ、第4弾。
左遷されたダンスが、集団パニックを引き起こす犯人を追いつめる。
ジェフリー・ディーヴァーは好きで、新作が出るたびに読んでいます。
リンカーン・ライムシリーズが有名ですが、本作のキャサリン・ダンスシリーズも、
十分に読者を楽しませてくれます。
物語はソリチュード・クリークという場所のナイトクラブから始まる。
バンドの演奏が行われ、混雑している店内で、煙が漂いはじめ、
火事が発生したと館内放送が流れる。
指示に従い、非常口へと殺到する客。
しかし、非常口の外側に大型トラックが駐車され、
扉が開かない状態だった。
客はパニック状態になり、3人の死亡者がでる惨事となる。
この事故を調べることになったのが、
得意のキネクシスを駆使して行った取り調べで、容疑者を見破れず、
取り逃がしてしまい、民事部に左遷されたダンス。
当初、偶然が重なった事故だと思われていたものが、
ダンスが調べると、誰かが意図的に仕組んだことがわかってくる。
犯人はどんな人物なのか。
そして、事件を起こす動機は何なのか。
作家の講演会、テーマパーク、病院のエレベーター。
次々と起こるパニック事件。
数少ない手がかりの捜査で浮かび上がる容疑者たち。
ディーヴァーの作品は、早い段階で犯人の視点でも描かれるので、
犯人がどんな人物なのかは読者には明かされている。
今回の犯人も犯行の様子が描かれている。
しかも、用意周到なのでダンスもなかなか追いつめることはできない。
ちょっと犯人側に都合よすぎないか・・・。
と思わないではないが、
不特定多数が集まっている場所でのパニックや
群衆心理や行動がリアルに描かれていて興奮してしまった。
次はどこを狙うのか、何のイベントに潜入するのか。
読者は先を読み、想像を働かせるが、
その心理もうまく利用してだましてくれる。
今作はなぜか日本や日本人がエピソードとして何度か登場する。
ソリチュード・クリーク。
直訳すると「コドクノオガワ」
この場所が、戦時中に日系人の強制収容所があった場所だったとか、
ダンスの息子のウェスが友達から無理矢理奪うものが、
日本のマンガの「デスノート」とか。
ラスト、事件の全貌や動機が明かされるが、
ちょっと拍子抜けしてしまった。
それまでさまざまな容疑者を捜査した後だったので、
裏をかきすぎたのでは・・・。
でも、さすがのディーヴァー。
最後におおきなサプライズが・・・・。
帯では「背負い投げ」と書かれている。
ダンスのプライベートや息子のウェスの話は、
ちょっと出来すぎ、まとめすぎと思ったが、
それでも十分楽しませてもらった。
続編の展開も気になる。
いつも食べてるあのお菓子の地方限定の味≪プリッツ ずんだ味≫
投稿日:2017-01-06 Fri
「ハリー・クバート事件」ジョエル・ディケール 著
橘 明美 訳
二作目の壁にぶち当たったベストセラー作家が、
師と仰ぐかつてのベストセラー作家の秘められた恋と恋人の失踪事件を調べるうちに、
意外な事実が明らかになっていく。
2014年に刊行された評判のミステリー、待望の文庫化です。
上下2冊、年末年始でかじりつくようにして読みました。
評判になっただけあって、冒頭から惹きこまれました。
1975年、アメリカ。
少女が男から追いかけられ、森に逃げていくのを見たと通報する女の様子が語られる。
そして、場面は変わり、2008年。
作家デビューし、1作目がベストセラーとなったが、
2作目がなかなか書けずに出版社から催促されているマーカス。
セレブ生活を謳歌しすぎて、1作目から時間がたちすぎ世間からも忘れられかけている。
困り果てて、最後に頼ったのは、作家になるきっかけをつくってくれた、
大学での恩師でベストセラー作家のハリー・クバート。
久々にハリーの元を訪れ、悩みを相談するマーカス。
ハリーから創作のヒントをもらおうと本棚を漁っていると、
75年に失踪した少女の新聞記事と、少女とやり取りした若き日のハリーの手紙を見てしまう。
その後、自宅に戻ったマーカスに、
ハリーから、行方不明になった少女・ノラの殺人の容疑で逮捕されたと連絡がある。
ハリーにかぎって殺人なんかするはずないと、
2作目の執筆を放って、ハリーの自宅へと駆けつけ、
ハリーの無実を証明しようと失踪した少女ノラについて調べ始めるマーカス。
一気に惹きこまれたが、途中長さをたびたび感じた。
手紙や小説や録音など、
さまざまな記述で75年当時のオーロラの町と
そこに住む住民の人間関係を浮かび上がらせていくのだが、
さすがに細かすぎてちょっと飽きてしまう。
それでも最後まで読んでしまったので、
単純につまらないとは言い切れない。
読んでいるといろいろと突っ込みたくなるところもでてくる。
後半ノラが警察署長に対してやったこととか、
「そんなことするわけないだろ、15の娘が・・・」と突っ込んでしまった。
ノラの人物像も前半と後半では大きく違ってくる。
純粋無垢な少女だと思いきや、計算高い面もあって、取引を持ち掛けたり・・・。
読み終わっても、ハリーが恋愛感情を持つほど魅力的とは思えなかった。
さらに言えば、オーロラの町でモテモテの当時のクバートも、
まったく魅力を感じない。
優柔不断で、虚像の大作家のイメージにしがみついているばかり。
読み終わった物語を振り返ると、
かなり瑕や欠点が多いと感じる。
話が一つに定まらずにあっちに行ったり、こっちにいったり。
ノラの母親のサプライズに関してはさすがに都合がよすぎる。
おそらく、書きながらどんどんアイディアが湧いてきて付け足していったんじゃないか。
大まかな構成はできていたんだろうけど・・。
あとから付け足し付け足しで書いていったがために、
人物像がいい加減になったと想像する。
唯一、キャラクターが立っていて、読んでいて楽しかったのは、
マーカスとその母親の会話。
日本人でもこういう母親いるいると、
うなずける典型的な母親像。
読んでいてホッとするし、母親の登場が楽しみだった。
難ありの小説だけれども、
最後まで読ませるからにはそれなりの面白さがあるのだと思う。
いつも食べてるあのお菓子の地方限定の味≪プリッツ ずんだ味≫
投稿日:2016-12-17 Sat
「満潮」
シッラ&ロルフ・ボリリンド 著
久山葉子 訳
スウェーデンが舞台のミステリー。
海岸で生き埋めのまま満ち潮で溺れ死んだ女の事件が、
発展した企業の闇を暴き出して、意外な真相が明らかとなる。
スウェーデン、ストックホルム。
警察大学に通うオリヴィア。
夏休みの課題で、死んだ父がかつて捜査を担当した未解決事件を調べ始める。
その事件とは、砂浜で生き埋めにされて、満ち潮で溺れ死んだ外国人の女性の事件。
当時父とともに事件を捜査していた元刑事・スティルトンの行方を捜すと、
ホームレスとなっていた・・・。
物語は、オリヴィアの事件を調べる様子と、
スティルトンのホームレスの生活が中心に描かれる。
そのほか、強引なやり口が批判されている大企業の社長のマグヌソンや
ホームレスを襲撃して、その映像をネットにアップするグループ、
スティルトンの元の同僚の警察の人間の様子も描かれる。
多視点で描かれるので事件を中心に現在と過去を幅広く描いている
のかもしれないが、
ちょっと物語が散漫になってしまっているように感じた。
若くて怖いもの知らずのオリヴィアが、
当時だれも解明できなかった事件の真相に突き当たる・・・・
という展開を期待していたが、
思ったほどオリヴィアは活躍しない。
殺人現場となった島まで行って調査するも、
それ以降は突っ込んで調べる様子は感じられなかった。
夏休みの課題で調べ始めるというのも、
捜査の動機としてはちょっと弱いと、途中で感じしまった。
なぜ彼女が・・・という疑問はラストのサプライズで明かされるのだが、
すべてがそのために仕組まれているので、
物語がちょっと強引な感じもした。
(島でヴェントと会う場面とか唐突に感じた)
ホームレスまで落ちぶれた元警官のスティルトンの描き方も、
中途半端に感じた。
落ちぶれた様をもっと強調してもよかったし、
なぜ刑事をやめることになったかもメンタル的なダメージがあったと書かれているが、
はっきりとはわからず釈然としなかった。
(その辺は次作以降で明かされるのか)
好感をもったのは、スティルトンの元の同僚の警視、メッテ。
肝っ玉母さん的な雰囲気が伝わって、
悲惨な事件の物語の中でちょっとほっとする。
事件の真相がほぼ語られたあとにサプライズが待ち受けているが、
さすがに出来すぎに感じてしまった。
訳者あとがきによると、
オリヴィアとスティルトンの物語はシリーズ化され、
4作目まで発売されているそうだ。
そう聞くと、この後、どう物語が展開されていくのか、
楽しみになってしまう。
個性的な登場人物が、どんな風に活躍するのか。
不満は残るが、
物語の始まりに立ち会えたのはすごくよかった。
少し大きい文字
いつも食べてるあのお菓子の地方限定の味≪プリッツ ずんだ味≫
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