投稿日:2018-07-16 Mon
「死後開封のこと」リアーン・モリアーティ 著
和爾 桃子 訳
現代のオーストラリアを舞台に、
おもに三人の女の視点で物語は描かれる。
セシリア。
小学校のPTA会長をつとめながら、
タッパーウェアの販売もする主婦。
3人の娘の子育てのほか、学校行事など、
仕事や家事を毎日勢力的にこなしている。
唯一の悩みは、夫とセックスレスということ。
テス。
夫と幼馴染で従妹のフェリシティーとともに宣伝広告会社をやっている。
ある日、夫と従妹に互い愛し合っていると告げられ、
息子のリーアムを連れて、家を出て、母がいる実家に戻ってくる。
レイチェル
セシリアがPTA会長を務めている小学校で、
テスの息子リーアムが編入する小学校の学校秘書を務めている。
17歳だった娘が公園で遺体となって発見された
未解決の事件に今もとらわれている。
楽しみだった孫と過ごす時間も、
嫁がアメリカに引っ越すということで、
もうすぐ終わろうとしている。
「死後開封のこと」とは、
セシリアが屋根裏の物置で、
偶然みつけた、夫、ジョン・ポールが以前書いた手紙のこと。
ほぼ内容を知らずに読み始めたので、
この手紙を軸に物語が進むのかと思いいや、
そうではなかった。
セシリア・テス・レイチェルの視点がほぼ均等に描かれる。
手紙とその謎で物語を引っ張っていくようなミステリーだと想像していたので、
肩すかしを食らう。
しかしながら、読んでいると、
現代を生きるオーストラリアの女の胸の内を繊細に、丹念に描いていて、
どんどんハマってしまった。
間違いなくそこが読みどころだと思った。
こちらからすると、
文化も性別も違う登場人物3人の心の揺れや葛藤に
結構共感できる。
また、女特有の本音と建前を使いわけ、
キャラを演じわけるしたたかさも描かれ、
とても面白く読んだ。
3人の視点だけでなく、
過去の事件様子なんかも挟まれて、
なんでもありのいかにも現代的な小説だと感じる。
ミステリーとして読むとちょっと物足りないが、
現代のオーストラリアの3人の女の人生の物語としては十分楽しめる。
それにしても、タッパーウェアってそんなに売れるものなんでしょうか。
投稿日:2017-06-09 Fri
「熊と踊れ」アンデシュ・ルースルンド & ステファン・トゥンベリ著
ヘレンハルメ美穂、羽根由 訳
このミス2017、海外編の第1位の作品。スウェーデンの事実に基づく、
3兄弟の銀行強盗の物語。
このミス、1位の作品。
毎年ランキングが発表されるのが楽しみで、
今年も期待しながら手にとりました。
舞台はスウェーデン。ストックホルム。
レオ・フェリックス・ヴィンセントの3兄弟とレオの幼馴染やスペルが、
武器庫を密に爆破して武器を人知れず盗み出すところから始まる。
そしてその武器を手に、4人は次々と銀行強盗を始める。
リーダーは、長男のレオ。
長男らしく、責任感があり、バラバラな4人を何とかまとめようと奮闘する。
次男のフェリック。三男のヴィンセント。ヤスペル。
話がつつむにつれ、4人の個性がそれぞれ描かれていって、
4人の関係性が微妙に変化していく様子もリアルに描かれている。
肝心の銀行強盗のシーンも何度も登場するが、
手に汗して読んだ。
とにかく、リアル。
そして映像的。
緊迫のシーンを読むのは楽しみではあったが、
読んだ後はものすごく疲労感を感じた。
銀行強盗のシーンを読んでいた時は、まさに4人と一緒に銀行に押し入り、
そして4人と一緒に逃走していた。
銀行強盗の犯す現在の3兄弟の様子とともに、
幼少期の3兄弟の家族の様子も交互に描かれる。
今は絶縁状態の父と母と暮らしていた頃。
やがて父の暴力に愛想を尽かし、
3人を残し家を出ていく母。
銀行強盗を犯す兄弟のこれまでの人生。
崩壊した家庭と父との決別。
やがて、4人の関係は崩壊し、
一旦、強盗グループは解散するのだが・・・。
強盗した金で普通の暮らしを夢見る、
フェリックスとヴィンセント。
ろくでもない人生で、
一発逆転に賭けるレオ。
なんとか捕まらずにいてほしいと願うが、
やはりそうはいかない。
ラストは読むのが切なかった。
結末はある程度予想がつくのだが、
最後の最後まであきらめないレオの姿がよかった。
驚くのは、著者の一人が、実際の銀行強盗の3兄弟と実の兄弟だということ。
もちろん、銀行強盗には加わらなかったのだが、
のちのち、本作を読んだ兄弟たちは自分たちの胸のうちが、
細かく書かれていると驚いたそうだ。
上下2冊とボリューム満点。
北欧の切ない銀行強盗の物語。
おすすめです。
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投稿日:2016-02-19 Fri
「悲しみのイレーヌ」ピエール・ル・メートル 著
橘 明美 訳
2015年の”このミス“海外版NO.1の作品。
昨年のNO.1の「その女アレックス」の前日譚で、
確かに面白かったが、できればこっちを先に読みたかった。
「その女アレックス」があまりにも面白かった記憶が、
まだ新しいだけに、
同じ著者の、同じシリーズということで、
否が応でも期待は高まってしまった。
フランス・パリの捜査当局、カミーユ・ヴェルーヴェン警部。
極端に背が低いが、その手腕で数々の事件を解決している。
妻のイレーヌは身重で、もうすぐ父親になる予定だ。
郊外で発生した娼婦2人の猟奇的な殺人事件の捜査の様子と、
カミーユとイレーヌの生活や父との関係、
死んだ画家の母の思い出などがところどころに描かれる。
死体が切り刻まれ、頭が切り離され、
内臓が抜き取られているという猟奇的な殺人事件。
家具や調度品が残され、置かれていたスーツケースには、
遺留品が多数残っていた。
それらの手がかりから犯人を割り出そうとするのだが、
捜査は難航する。
その後、今回の事件とよく似た事件が過去に起きていたことがわかる。
そして、その猟奇的な犯行現場に共通している点に、
カミーユは気づいて、捜査は一気に進展したように思うのだが・・。
「その女アレックス」と本作。
もし両方をお持ちなら絶対本作から読み始めてほしい。
ああ・・・。
できればこの本を先に読んでいたら、
もっと楽しめたはずなのに。
「その女アレックス」は、本作のその後を描いている。
つまり、カミーユのその後を既に知ってしまっていたので、
結末は初めからわかってしまった。
できれば違った結末になってほしいと願っていたが、
残念ながら想像通りの結末だった。
*この先は特に結末に関係しています。*
「その女アレックス」では、過去に妻がいたことがふれられるし、
そして、「その女アレックス」で登場しない部下がいることが、
なぜなのかを考えてしまった。
それらに気づいてしまうと、
物語の重要な謎のいくつかが容易に想像つくのだ。
「その女アレックス」を意識して、二匹目のドジョウを狙う気持ちはわかるのだが、
このタイトル「悲しみのイレーヌ」はあまりにも多くを語りすぎだ。
もっと別のタイトルにしてほしかった
普通の読者なら、イレーヌに大きくかかわる何かが起きると考えると思う。
読みながら感じた既視感。
それは、ブラピ主演の映画「セブン」。
事件の捜査と並行して、
新婚生活と身重の妻を描いていたので、
「セブン」を意識して描いているのではないかと思った。
映画のカット割りのようにセリフだけでの場面転換や、
手紙や本の文章の挿入など飽きさせない工夫があるのだが、
全体的な出来としては「その女アレックス」には及ばないと思う。
それでもかなり楽しめる作品なのは間違いない。
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投稿日:2015-06-11 Thu
「その女アレックス」ピエール ルメートル 著
橘 明美 訳
各ミステリーランキングでNO.1を獲得した注目のミステリーサスペンス。
ランキングに偽りなし。
とても興奮しました
毎年発表されるミステリーランキング。
2014年のNO.1をいくつも獲得したのが本作。
どれほどのものかと期待しながら読みました。
冒頭からいきなり惹きこまれます。
若い女、アレックスが車に連れ込まれ、さらわれます。
物語に身構えていなかったので、結構衝撃的。
しかも、文章が読みやすいし、
展開も早いのでさらに惹きこまれる。
そして、この事件の捜査当局の担当者、
警部のカミーユの視点からとアレックスの視点からと
交互に描かれ、
まったく読者を飽きさせず、
ぐいぐい引っ張っていきます。
アレックスとカミーユ。
人物像がしっかりしている。
それぞれの人生や生活が語られるが、
アレックスはどこか謎めいていて、
徐々にその素性が明かされていく。
カミーユは背が極端に低く、
妻を事件で亡くしている。
部下のルイは実家が富豪で、
アルマンは対照的にしみったれ。
それぞれのキャラクターが際立っていて、
凄惨な物語のアクセントになっている。
この本を紹介するのに、
ストーリーを描くとネタバレになってしまうので、
未読の人は以降は読まない方がいいと思う。
なるべく予備知識なしで楽しむ方がいい。
冒頭のアレックスの誘拐事件の捜査が進展すると、
なぜアレックスが誘拐されたのか、
アレックスは一体何者なのかに焦点が当たっていく。
前半からグロいシーンが登場して、
その描写がこの著者がうまい。
ねずみとアレックスの格闘は、
読んでいて顔が歪んでしまった。
アレックスをろくでもない女だと思って、
嫌悪して読み進めると、
後半で明らかになるアレックスの人生、生い立ちに
深く深くため息をつきたくなった。
久しぶりに読み応えのある小説に出会えた充実感。
いい小説を読み終えた時の、
他人の人生を全身で味わえたような、
何とも言えない満足感。
これだけ面白い小説にはなかなか出会えないと思う。
ミステリーでは「解錠師」以来。
ランキングに偽りなし。
未読の人は、ぜひぜひ読んでください。
自身を持っておすすめできます。
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投稿日:2014-12-07 Sun
「ウィンブルドン」ラッセル・ブラッド 著
池 央耿 訳
前半は青春スポーツ小説、後半は犯罪サスペンス小説。
一度で二度おいしい(?)小説です。
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本書は、名作とされているスポーツ小説で、
待望の復刊ということで、期待して読み始めました。
タイトルからわかるとおり、
プロテニスプレイヤーが主人公として登場し、
テニスの様子もたっぷりと描かれています。
しかし後半はガラっと味わいが変わり、ウィンブルドンを舞台にした、
犯罪サスペンスの物語になります。
個人的には前半の若者がテニスに打ち込み、
年齢も国籍を超えて交流する物語が読んでいて心地よかったです。
ソ連の国や国民が何か理解できない、謎めいていてあやしい感じがしていた時代。
(今でもロシアは少なからず謎めいていますが・・・)
国の思惑ではなく、単純にテニスを楽しみたいと考える少年と、
その少年を匿うオーストラリアの青年とその家族。
その関係が何とも好感が持てるし、
読んでいて心地よかった。
互いに英語やロシア語を学びあう姿うらやましい。
テニスという共通の言語でつながっているのもいいなって思ってしまった。
テニスに対する姿勢が違っているのも面白かった。
後半はウィンブルドンを舞台に、試合と犯罪が、
同時進行で描かれる。
今なら、携帯電話があるのでもっと違った展開になるのでは・・・と
想像しながら読んでしまうので、
正直物足りない気持ちが強かった。
ロシア語が重要なところで登場したときには、
やった・・・という感じがしたが、
その後も展開は遅く、結末もすっきりはしなかった。
(犯罪の内容に触れないように書いたので、わかりにくい内容で恐縮です)
それでも前半の二人のテニスプレイヤーの交流を読んでいるだけに、
後半の犯罪の部分が生きてきていたのはよかったかな。
最後に個人的な余計なことですが、
「3カメさん」「4カメさん」という翻訳はなんか最後まで違和感が残った。
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