投稿日:2018-11-28 Wed
「全告白 後妻業の女 『近畿連続青酸死事件』筧千佐子がかたったこと」
小野 一光 著
資産のある独り身の老人と結婚し、次々と毒殺して資産を手に入れたとされる、
リアル後妻業の女のノンフィクション。
映画化もされた小説で「後妻業」という言葉が話題になって間もなく、
付き合った男性や結婚した男性が次々と死んでいる女性がいると
メディアで取り上げられ、
やがて逮捕されて大きく報道されるようになる。
話題になった、リアル「後妻業の女」の事件をつづったノンフィクション。
フリーの記者である著者が、
週刊誌の依頼で、事件の中心人物の後妻業の女、
筧千佐子を取材し始める様子から描写される。
逮捕されて、裁判にかけられるのだが、
それはごく一部の事件(4人の殺人容疑)。
しかし、実際はもっと多くの人が千佐子の周りで不自然に死んでいる。
本書ではそれを11件としている。
ちなみに、「筧」という姓は最後となった結婚相手の筧勇夫さんの姓。
遺族からすると、いまだに筧という名前を名乗っていることが、
我慢ならないのではと想像してしまった。
千佐子の人生を振り返りつつ、これまで死んだ男性の疑惑を取材すると、
あからさまなその手口に唖然とする。
例えば、
結婚したら相手の男性に全財産を自分に相続するという
公正証書を書かせていたり、
死んだ男性の葬儀の席で、
親や兄弟に財産を自分が全部相続することになっていると宣言したり・・・。
遺族はそれぞれ男性の死を少なからず不振に思うのだが、
千佐子の犯行を証明することができず、
泣き寝入りするしかなかった。
千佐子はターゲットとする男性を、
結婚相談所で探している。
それも露骨で、資産があり、
できれば子供がいない独り身の老人を物色していたそう。
これだけ不自然な死が続いているのに、
ここまで被害が拡大したのは、
捜査当局とか今の捜査体制にも問題があると思う。
死んだ男性は青酸カリをサプリメントと偽って飲まされ、
殺されている。
逮捕のきっかけとなった最後の事件を除けば、
死因はほぼ病死の扱いをされ、
問題にされなかった。
以前から言われていることだが、
日本は検死の体制が十分でなく、
多くの殺人が見逃されているとされる。
実際この事件も何人もの人が病死とされて、
見逃されている。
遺族によっては不自然な死なので、
捜査を警察に要請したが、
受け付けてもらえなかったりしていた。
もし、もっと早い段階で、
毒殺の事実を突き止めていたら・・・、
と想像してしまう。
裁判でのやりとりでは
弁護方針から外れて積極的証言する様子や、
都合よく認知症で忘れたと証言する様子が描かれ、
著者との面会でのやりとりでは、
著者に「秋波」を送る様子が記されている。
とえも普通の精神状態ではないと思ってしまった。
普通ではないから、これだけ平然と犯行を重ねたのだろうが。
本書のタイトル「全告白・・・」
ちょっと期待しすぎたせいか、
物足りなさを感じた。
面会でもっと驚愕の事実が明かされると期待してしまった。
十分異常性は描かれていると思うが・・・。
面会の様子の分量も、
全体からすると少ないし不満が残る。
個人的には、
千佐子の人生をもっと振り返って、
掘り下げてほしいと思った。
生い立ちや家庭環境などもっと知りたかった。
この辺は好みなので、
ぜひ読んで確かめていただきたい。
読了後、あらためて
穏やかに笑っている千佐子の表紙の写真を見ると、
ますます人間の闇の深さを感じてしまった。
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投稿日:2018-11-17 Sat
「43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層」石井 光太 著
当時、日本中を震撼させた少年殺害事件のノンフィクション。
さまざまな角度から事件を見つめなおしていて、
著者の筆力が存分に発揮された力作。必読です。
不謹慎を承知で言わせてもらえれば、事件もののノンフィクションが大好物です。
今の日本の闇や暗部が、事件に如実に表れていると思うから。
新聞やテレビのセンセーショナルな報道だけでは見えない、
事件の裏側や犯人の人間像・家庭環境なんかがより深くわかる。
本書はウェブマガジンの連載中から時々読んでいて、
書籍化されるのを待っていました。
悲惨な事件を単純に正義感で描くのではなく、
冷静な視点で、さまざまな角度から事件を描いています。
事件は川崎の多摩川の川岸で、
全裸の中学1年の少年の遺体が発見されたことから端を発する。
後日、逮捕されたのは地元の10代後半の少年3人。
被害少年の体には、43か所の刃物で切り付けられた傷があったことから、
その凄惨さに一斉に報道され、日本中の話題となった。
そして、報道されると同時に、
事件現場となった多摩川には多くの人が、
被害少年の慰霊のため、
花や食べ物を供えに訪れ、
その様子も何度も報道され話題となった。
まずは被害少年の父親の視点での記述が続く。
母親には取材できなかったことが理由だが、
事件までの少年の人生がよく描かれている。
離婚して、息子とは別に離島に暮らしていた父親が、
警察の捜査に協力するために川崎に来るが、
捜査の進展を一切知らされず、
息子のために何もできない事件直後の様子は、
被害者の家族の気持ちが伝わってくる。
そして、加害者の少年の家庭環境もそれぞれ描かれる。
3人の内、2人の母親がフィリピン出身ということで、
それも当時いろいろと話題になったらしい。
殊更、その点を強調すべきではないが、
事実を伏せるのもよくないと思う。
加害者の少年たちに共通していたのは、
家や学校に居場所を見いだせず、非行を繰り返したこと。
ゲームやアニメに熱中し、同じような境遇の仲間と
遊ぶ金欲しさに賽銭泥棒や万引きをする。
特に一人の少年の母親は、
日本語が覚束ない程度で、
親子ではきちんとコミュニケーションができていなかったそうだ。
また、日本語ができないことから、
日本の社会とか教育とか制度を理解できないので、
息子の先生や学校とのやりとりもしていなかったようだ。
たくさんの花であふれた事件現場の多摩川で、
枯れた花を処分し、掃除するボランティアの人たちが現れる。
また、遠くからわざわざ花を供えにくる人たちも大勢いた。
かつていじめられていた人や子供がいじめにあっている人など、
この事件がきっかけとなってつながり始めて人々も描かれれる。
読み進むうちに事件の悲惨さに心が重くなる。
そして、被害少年を何とかして救う方法があったのではないかと考えてしまう。
父親が言うように、少年は運が悪かったのかもしれない。
今の日本の社会のひずみやシワ寄せが少年の命を奪ったのかもしれない。
主犯の少年は、たびたび非行を犯していて、
警察につかまっている。
それでも、少年院や施設には入れられず、
社会での更生が許されている。
もし、しっかり施設で更生させていれば、
被害少年は生きていたかもしれない。
裁判を通じて、
行政の失敗や怠慢が
事件の原因の一つであるとまったく触れられなかったことを
著者は強調する。
もし、外国人の親を持つ子供やその家庭に、
行政の救いの手が差し出されていれば、
加害者の少年の運命は違っていたかもしれない。
日本語が覚束ない母親は、事件後、
アメリカ人の恋人とアメリカに渡ったそうだ。
現在の川崎はどうかわからないが、
当時の川崎という町は、
学校や家に居場所がない少年たちには、
非行に走りやすい環境だったのかもしれない。
主犯格の少年は、酒に酔うと狂暴になるようで、
犯行時も酒に酔っている。
コンビニで普通に酒が買え、
居酒屋では少年グループで何度も飲酒している。
被害少年や加害少年に、
もう少し違う居場所があれば・・・。
違う道を示してくれる人がいれば・・・。
事件は起きなかったかもしれない。
そう思わずにはいられなかった。
事件後、川崎は日本はどう変わったのか。
まったく変わってないのか。
今の日本を生きるうえで、必読の一冊だと思う。
投稿日:2018-11-13 Tue
「会社を辞めずにあと5万円!稼ぐ」新井 一 著
あと5万円あれば・・・。
そんな願いを叶える、小さく稼ぐためのはじめの1歩の踏み出し方を
様々な角度から教えてくれる一冊。
給料が上がらないこの時代。
あと5万円あれば、何かと楽なのに・・・。
なんとかしてその願いをかなえたいと思う人に、
何からはじめればいいか、
どうやればうまくいくか、
うまくいった時の注意点、
うまくいかなかったときの対処法、
などなど、
とにかく1歩踏み出そうよ、やさしく語りかけてくれます。
ネットが復旧して、
さまざまなサービスが発達して、
以前にもまして、個人で稼ぐのに適している時代になっているそう。
お客へのセールスも、
場所を借りるのも、
代金の決済も、
簡単にできるようになっているので、
とりあえずやってみようよと著者は呼びかける。
やっぱり「あと5万円」というのがミソ。
小さく稼ぐので、リスクが小さい。
そして、自分の得意なことで稼ぐので、
まったくストレスにならない。
もし、本業よりうまくいったら、
こちらを本業にすればいい。
などなど、説得力ある。
無料で使えるインターネットサービスの一覧も、
知っていると知っていないではやはり、
大きく違うはず。
あと5万円は結構ハードルは高いと思うが、
著者が言うようにリスクがゼロなら、
初めて見てもいいかな、と思った。
投稿日:2018-07-16 Mon
「死後開封のこと」リアーン・モリアーティ 著
和爾 桃子 訳
現代のオーストラリアを舞台に、
おもに三人の女の視点で物語は描かれる。
セシリア。
小学校のPTA会長をつとめながら、
タッパーウェアの販売もする主婦。
3人の娘の子育てのほか、学校行事など、
仕事や家事を毎日勢力的にこなしている。
唯一の悩みは、夫とセックスレスということ。
テス。
夫と幼馴染で従妹のフェリシティーとともに宣伝広告会社をやっている。
ある日、夫と従妹に互い愛し合っていると告げられ、
息子のリーアムを連れて、家を出て、母がいる実家に戻ってくる。
レイチェル
セシリアがPTA会長を務めている小学校で、
テスの息子リーアムが編入する小学校の学校秘書を務めている。
17歳だった娘が公園で遺体となって発見された
未解決の事件に今もとらわれている。
楽しみだった孫と過ごす時間も、
嫁がアメリカに引っ越すということで、
もうすぐ終わろうとしている。
「死後開封のこと」とは、
セシリアが屋根裏の物置で、
偶然みつけた、夫、ジョン・ポールが以前書いた手紙のこと。
ほぼ内容を知らずに読み始めたので、
この手紙を軸に物語が進むのかと思いいや、
そうではなかった。
セシリア・テス・レイチェルの視点がほぼ均等に描かれる。
手紙とその謎で物語を引っ張っていくようなミステリーだと想像していたので、
肩すかしを食らう。
しかしながら、読んでいると、
現代を生きるオーストラリアの女の胸の内を繊細に、丹念に描いていて、
どんどんハマってしまった。
間違いなくそこが読みどころだと思った。
こちらからすると、
文化も性別も違う登場人物3人の心の揺れや葛藤に
結構共感できる。
また、女特有の本音と建前を使いわけ、
キャラを演じわけるしたたかさも描かれ、
とても面白く読んだ。
3人の視点だけでなく、
過去の事件様子なんかも挟まれて、
なんでもありのいかにも現代的な小説だと感じる。
ミステリーとして読むとちょっと物足りないが、
現代のオーストラリアの3人の女の人生の物語としては十分楽しめる。
それにしても、タッパーウェアってそんなに売れるものなんでしょうか。
投稿日:2018-06-02 Sat
「失われた手稿譜 (ヴィヴァルディをめぐる物語)」フェデリーコ・マリア・サルデッリ著
作曲家・ヴィヴァルディーの手書きの楽譜がたどった運命を描いた小説。
ユーモラスな描き方でとても読み易かった。
タイトル通り、ヴィヴァルディーの手稿譜がたどった運命を史実に基づいて描いた小説。
有名な作曲家というイメージしかなかったヴィヴァルディー。
実際はとても人間的だ、親しみのもてるダメな部分もたくさんあったとは驚き。
とはいいながら、ヴィヴァルディー本人は一切登場しない。
兄弟や債権者が登場し、間接的にヴィヴァルディーが描かれる。
宗教家でありながら、借金の取り立てに苦しんでいたというのは、
本当に驚き。
兄の手稿譜を何とか後世に残そうとする弟の奮闘ぶりがユーモラスに描かれていて、
そこから一気に惹きこまれる。
手稿譜がたどった運命を時代を行きつ、戻りつしながら描かれる。
あとがきによると、史実に基づいて描かれていて、
事件なんかはほとんど実際に起こったしている。
そう言われても、本当か?疑ってしまうような面白い事件も起きていて、
登場人物などとてもユーモラスに描かれていて、
とても読み易かった。
物語に進むにつれて、
手稿譜がばらばらにならないように祈りながら読んでいた。
現代に近い、1920年代、図書館の資料として手稿譜を保存しようと、
奔走した責任者が、時代の風潮で、功績をまったく評価されず、
解任されたというのは、心が痛む。
権力者の横暴や、教会が修復費用の工面に苦労する様子など、
さまざまな時代のイタリアの社会が描かれているのも面白かった。
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